「外国人がタイを離れている」という話を聞くと、タイ移住そのものが終わったように感じるかもしれません。
しかし、2026年の数字を丁寧に分けて見ると、起きているのは一斉退去ではなく、収入、税務、仕事、健康、滞在資格による選別と入れ替わりです。
この記事では、2026年9月時点で確認できる不動産統計と居住者調査を整理し、自分がタイに残るべきか、条件を変えるべきか、別の国や日本へ移るべきかを判断する5つの条件を解説します。
解説は水谷侑二が、海外移住を国の評判ではなく「自分の条件で成立するか」という視点からまとめています。
結論:「タイ離れ」は一斉退去ではなく、選別と入れ替わり
2026年9月時点で、外国人全体がタイから一斉に退去していると断定できる単一の公的統計は確認できません。
一方で、以前と同じ条件のまま暮らし続けられる人ばかりではないことも事実です。
タイ政府系の不動産情報機関REICによると、外国人へのコンドミニアム所有権移転は2025年通年で14,899戸となり、前年より2.2%増えました。
その一方で、2025年の移転価額は609億2,100万バーツで、前年より10.7%減っています。
さらに2026年上半期は6,533戸となり、前年同期比で8.8%減りました。
減速はありますが、国籍別では中国人の購入戸数が23.8%減る一方、ロシア人は50.4%増えており、すべての外国人が同じ方向へ動いているわけではありません。

この数字から読み取れるのは、「外国人が全員逃げている」という単純な物語ではなく、購入目的、国籍、資金事情、生活目的によって需要の中身が変わっているということです。
統計は「誰を数えた数字か」で意味が変わる
タイの外国人を語る数字には、入出国者、外国人就労者、住宅購入者、特定ビザの取得者、現在の居住者という異なる集団が含まれます。
入出国記録は観光客、短期出張者、同じ人の複数回渡航を含む延べ件数であり、退職移住者の純増減を直接示しません。
外国人就労者の統計は労働市場の構成を見るには有効ですが、日本人や欧米人の退職移住者だけを測るものではありません。
コンドミニアムの所有権移転には投資、家族利用、セカンドハウスが含まれ、賃貸住宅で長く暮らす人は数字に現れません。

異なる対象を一つの「外国人」にまとめると、増加とも減少とも説明できてしまいます。
現在住んでいる人の満足度は、依然として高い
InterNationsのExpat Insider 2026では、タイは31地域中3位でした。
タイ生活に満足している回答者は86%で、永住したいと答えた人は42%です。
生活費を肯定的に評価した人は85%、可処分所得で快適に暮らせると答えた人は78%、住宅費への満足は79%でした。
同時に、行政手続への肯定評価は20%、銀行口座開設を簡単と答えた人は43%、行政サービスのオンライン利用を肯定した人は33%にとどまります。

不動産移転の減速と居住者の高い満足度は矛盾しているのではなく、測っている人と目的が違います。
タイに残る人と帰る人を分ける5つの条件
判断するときは、タイが良い国か悪い国かではなく、現在の自分にタイ生活が成立するかを確認します。

1.収入通貨と資金余力
収入と資産が円で、生活費がバーツなら、タイの物価が変わらなくても為替だけで負担が増えます。
月7万バーツの生活費は、1バーツ3.5円なら24万5,000円ですが、4.5円なら31万5,000円となり、差額は年間84万円です。
これは為替予測ではなく、生活費が20%増えても医療費、保険料、帰国費用を別に残せるかを確認するストレステストです。
2.税務と送金記録
タイでは、暦年で合計180日以上滞在すると、原則として税務上の居住者になります。
タイ歳入局の案内では、2024年1月1日以降に得た国外源泉所得を、税務上の居住者がタイへ送金した場合、タイの課税対象となる可能性があります。
ただし、海外から送金した金額のすべてが自動的に所得として課税されるわけではなく、所得を得た時期、所得区分、取得原価、送金、外国税額控除、租税条約などで結論が変わります。
銀行残高だけでなく、所得を得た年、取得原価、納税記録、送金日、送金額を追跡できる状態を作ることが重要です。

税務は個別事情で結論が変わるため、実行前にタイと関係国の専門家へ確認してください。
3.仕事の目的
タイの快適な生活と、現地雇用での昇進や転職のしやすさは同じ評価軸ではありません。
現地就職でキャリアを伸ばしたい人と、国外で収入を作りタイを生活拠点にする人では、同じ国でも評価が逆になります。
4.健康と環境
良い病院へアクセスできることと、毎日の空気、暑さ、季節変動が自分の健康に合うことは別の問題です。
呼吸器への配慮が必要な人は、国単位ではなく、都市と季節を分けて判断する必要があります。
5.滞在資格と行政手続
退職目的の一部手続では、50歳以上であることや、本人名義のタイ国内預金80万バーツなどの条件が示されています。
ビザを一度取得できるかではなく、更新資金を置いても緊急資金が残るか、制度変更時に別の滞在資格や二拠点へ切り替えられるかまで確認します。
滞在制度は変更されるため、申請前には必ずタイ入国管理局などの最新案内を確認してください。
「続ける・条件を変える・離れる」の判定方法
次の5項目へ、緑、黄色、赤の三段階で答えてください。
- バーツ建て生活費が20%増えても、医療費と帰国費用を別に確保できるか。
- 滞在日数、国外所得、送金、外国税額控除を説明できる記録があるか。
- タイの現地雇用市場だけに依存せず、必要な収入とキャリアを作れるか。
- 空気環境が厳しい時期を含め、一年間の健康と生活を維持できるか。
- ビザの更新資金を置いても流動性が残り、制度変更時の予備ルートがあるか。
緑は厳しい条件を置いたストレステストでも成立する状態で、黄色は一つの条件変化で計画が崩れる状態です。
赤は医療費や税金を払うと生活防衛資金が不足する、必要なビザを更新できない、健康上その都市に住み続けられないなど、すでに行動が必要な状態です。

5つすべてが緑なら、タイは今も有力な生活拠点です。
黄色や「いいえ」が一つか二つなら、完全撤退の前に都市、季節、住居、滞在月数、送金方法、滞在資格を変えてください。
赤や「いいえ」が三つ以上なら、二拠点化、別の国、日本への帰国を具体的に比較する段階です。
判断は年に一度だけでなく、ビザ更新前、税務年度の前後、保険更新時、円とバーツの収支が大きく変わったときに見直します。
残ることも、離れることも、目的ではない
タイに残ることを成功、離れることを失敗と考える必要はありません。
環境や自分の条件が変わったときに、生活拠点を変えられることも海外移住で得られる選択肢です。

他人がタイを離れた理由を、そのまま自分の結論にせず、自分の収入、税務、仕事、健康、滞在資格へ戻して判断してください。
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参考情報
- REIC:2025年の外国人向けコンドミニアム所有権移転
- REIC:2026年上半期の外国人向けコンドミニアム所有権移転
- InterNations:Expat Insider 2026 Thailand
- タイ歳入局:国外源泉所得に関する案内
- タイ入国管理局:退職目的の滞在延長条件
著者:水谷侑二
京都大学大学院情報学研究科で5Gに関する研究に従事し、現在は海外移住、海外金融、海外移住OSの情報設計と実践的な判断支援に取り組んでいます。


