海外移住を考えるとき、移住先の物価やビザより先に決めておきたいことがあります。
「何が起きたら暮らし方を変えるか」という出口の条件です。
東南アジアで2022年1月からサイドFIRE生活を続ける水谷侑二が、医療・為替・滞在資格・家族の4つの判断軸を整理します。
帰国だけを結論にするのではなく、現地生活の継続、日本との二拠点化、生活の本拠を日本へ戻すことを、条件に応じて選び分けるための記事です。

帰国を決める前に「継続・二拠点・帰国」を分ける
海外移住は、現地で長く暮らし続ければ成功という競争ではありません。
病院、行政手続き、銀行、近所の人間関係など、生活の基盤も移住先で作り直す必要があります。
状況が変わったときに選べる行動は、現地生活をそのまま続ける「継続」、日本で過ごす時間を増やす「二拠点」、生活の本拠を戻す「帰国」の三つです。
撤退ラインとは、問題が起きてから慌てて決めるものではなく、この三つを切り替えるための事前ルールです。
1.医療――治療費より「治療を続けられるか」
高額な手術を一度支払えるかだけでは足りません。
診断、入院、リハビリ、通院、家族の付き添いを含めて、必要な治療を続けられるかが基準です。
本人や家族が、症状、既往歴、服薬、アレルギーを救急時に伝えられるか、医療通訳を手配できるかも確認します。
手元の現金で負担できる上限、保険の免責・既往症・更新年齢・年間限度額、日本での治療までに要する日数を、一枚の表にしておくと判断しやすくなります。
日本の国民健康保険は、原則として国内に住所を有する人が対象です。
海外転出している人が一時帰国しただけで自動的に加入できるわけではなく、生活の本拠や他の医療保険との関係を含めて自治体等へ確認する必要があります。
加入対象となる場合の届出は原則14日以内です。
海外療養費も、加入者が海外で受けた治療費の全額や、現地請求額の一定割合をそのまま払い戻す制度ではありません。
日本国内の保険診療に相当する金額などを基準に審査されます。

2.為替――現地通貨と円の両方で生活費を計算する
円建ての収入や資産で、現地通貨の支出を賄う人は、現地の物価が同じでも円安で負担が増えます。
たとえば月7万バーツの生活費なら、1バーツ3.5円では月24万5千円、4.5円では月31万5千円です。
差は月7万円、年間84万円で、これは現在の実勢レートではなく計算方法を示すための仮定です。
まず現在の支出を円と現地通貨の双方で出し、現地通貨が円に対して20%上昇した場合を試算します。
さらに家賃、医療保険、航空券の値上がりも加え、資産の取り崩しが自分の上限を超えるなら、滞在月数や住居費を見直します。
二拠点は常に節約策ではありません。
日・海外の住居費、移動費、保険を同時に払うと、完全帰国より高くなる場合もあるため、三案を総額で比較します。

3.滞在資格――取得より更新と資金の流動性を見る
ビザの取得時だけでなく、毎回の更新条件と、維持のために拘束される資金を確認します。
タイの退職目的の一部の滞在手続きには、50歳以上や本人名義のタイ国内預金80万バーツなどの条件が示されていますが、資格の種類や申請先、収入との組み合わせで要件は異なります。
マレーシアのMM2Hもカテゴリー別に条件が違い、Silverには定期預金、不動産購入、更新期間などの要件があります。
「条件を満たせるか」に加え、「満たした後も治療費や帰国費用をすぐ動かせるか」を見ます。
更新のために緊急資金が不足する、別ルートも現実的でないという状態なら、資格が失効する前から二拠点化や帰国の準備に着手するのが安全です。
具体的な制度を比べる場合は、タイの長期滞在ルートやマレーシアMM2Hの住宅購入と代替ルートも参考にしてください。

4.家族と孤独――緊急時の支援を行動で確かめる
住居が快適で生活費が安くても、緊急時に頼れる人がいないと、年齢とともにリスクは大きくなります。
現地で連絡できるだけでなく実際に来てくれる人は何人いるか、日本の家族に支援が必要なとき何日で帰れるかを確認します。
配偶者のどちらかだけが海外生活を我慢していないか、人と直接話す日や外出する日が一週間に何日あるかも、見直しの材料です。
世界保健機関(WHO)は、孤独や社会的孤立と健康上のリスクの関連を報告しています。
ただし、国際統計をそのまま個人の帰国期限に置き換えることはできません。
本人と家族が「この状態が何か月続いたら暮らし方を変えるか」を先に決めることが重要です。

4本のラインを「緑・黄・赤」で運用する
医療は治療継続、為替は資金計画、滞在資格は更新と流動性、家族は緊急支援と日常のつながりを見ます。
それぞれを緑・黄・赤にし、黄色が二つになったら二拠点化も含めて比較を始め、赤が出たら帰国を含む具体的な行動へ移します。
これは全員に同じ金額や日数を当てはめる制度上の基準ではなく、私が勧める意思決定の枠組みです。
帰国は失敗ではありません。
移住で得た経験を残しながら、今の自分と家族に合う暮らしへ更新する選択です。

よくある質問
海外から一時帰国すれば国民健康保険を使えますか?
一時帰国だけで自動加入するわけではありません。
日本での住所、生活の本拠、勤務先の健康保険などを確認し、加入可否を自治体等へ相談してください。
円安になったらすぐ完全帰国すべきですか?
為替レートだけで決めず、家賃や保険を含む総支出と資産の持続年数を試算します。
滞在月数の変更、住居の見直し、二拠点化、帰国を総額で比較してください。
黄色が二つなら必ず二拠点化しますか?
いいえ。
黄色が二つは比較を始める目安であり、二重の住居費や家族負担が大きければ、帰国の方が合理的な場合もあります。
自分の条件を整理する
移住先、滞在ルート、医療、家族、資産の確認順序は人によって違います。
現在利用できる無料Webアプリ「海外移住OS」では、移住先診断、対象地域の比較、滞在ルートの確認、一次情報に基づく移住計画と準備の整理ができます。
使い方、対象地域の考え方、移住準備に関する最新情報は、公式LINEで確認できます。
著者:水谷侑二
2022年から東南アジアでサイドFIRE生活を続け、海外移住と生活・資産の選択肢について発信しています。


